法要当日に代読された岸、松永両氏の祝辞の抜萃は次ぎの通りである。
《 正宗の発展を喜ぶ
総理大臣 岸 信介
大導師日興上人がこの地に大法弘通の法基を定め、立正安国の大旗を掲げ、正法広布に努められましたことは、わが国仏教史上に一時代を画したものでありまして、誠に意義深いことと存じます。
大石寺が日蓮宗門史上に占める位置は今更申しあげるまでもありませんが、六百余年前から富士岳麓の名刹として一般に景仰され、今ここに大講堂の完成を見るに到りましたことは御同慶にたえないところであり、ますますその真価が内外に発揚されることを深く喜ぶものであります。
現下、思想的にも、道義的にも憂慮を禁じ得ない事象の発生を見ており、祖国再建の途はなはだ峻険であります。宗門の各位におかれては国民が極端な思想に左右されることなく、伝統の道義を重んじ、正しい愛国の精神と高い民族的自覚を堅持して、新日本再建にまい進するよう、強力な布教に努力されんことを切望してやみません》
《 世界平和の確立へ
前文部大臣 松永 東
日蓮正宗は日蓮聖人を宗祖とし、日興上人を派祖とされております。すなわち正応三年日興上人が身延を出でて秀麗富士の麓大石原の地に大石寺を建立されたのに由来しております。−−中略−−その間僧俗一致して布教活動に努力せられ、今日の教勢を見るに至ったことは各方面の斉しく注目するところであります。
世界平和の確立は今や世界をあげての重大課題でありますが、今後わが国の尽すべき使命と責任とはまことに大なるものがあります。いわんや国際連合の非常任理事国となった今日われわれ国民は世界的視野をもち高い倫理性にめざめて、この崇高な理念と友愛とに立脚した自覚あり節度ある生活行動をとるものでなければなりません。道徳教育ないし道徳の問題が社会の関心をたかめているゆえんもまたここにあるといえましょう。
このように道徳的心情を確立することが今強く要請せられるにつけその基底として宗教のになう役割が大きく高く評価されるとともに社会の眼もまたここに多く注がれているのであります。
貴宗教におかれても深く思いをここにいたされ、大講堂の落成を新たな契機とせられて、更に一層御精進あらんことを希望してお祝いのことばといたします。》
しかし学会と保守権力とのさらに緊密な関係の構築は、この発言の約ひと月後の4月2日、戸田の急逝により実現出来なかった。
戸田亡き後、創価学会で保守勢力のパイプとなったのは北条雋八であり、後には北条の甥である北条浩の存在が大きかった。